2010年9月18日土曜日

「ソウル」とはハングルで、漢字では表記できない?

 
ソウルは固有語(みやこ、という意味)ですので、本来は漢字表記がありません。「京城」を韓国語読みすると「キョンソン」になります。従って、植民地時代は、「ソウル」という言葉をハングルで表現するか、あるいは日本語に翻訳する時は、一般名詞として「みやこ(都)」というように訳すか、もしくは地名として訳すなら「京城」と翻訳していたと思います。

ただ、植民地時代に現地で作られた映画を見ますと、当時の朝鮮人たちは今のソウルのことを、現在と同じように「ソウル」と呼ぶかもしくはそのまま日本語読みで「けいじょう」と言うかのどちらかで、「キョンソン」という言い方は一般に殆ど使われていなかったようです。わずかに朝鮮総督府が製作したニュース映画のようなものだけに「キョンソン」という言い方が出てきます。つまり朝鮮総督府の公的な発表等にしか「キョンソン」という呼び方は使われていなかったのです。

そのような言葉の利用実態を見た当時の日本人たちの多くが(時に公的な地図等も含めて)「京城」を朝鮮語で「ソウル」と読むのだと誤解していたというのが真相かと思われます。

なお、現在ソウル特別市は公式に漢字表現として「首爾(簡体字では首尔)」という表現を定めていますが、これは最近になって中国語の音で「ソウル」という呼び方に近いものをということで決めたものです。これは従来中国で「ソウル」の漢字表現がなかったため、朝鮮王朝時代そのまま「漢城」と表記していたので、これはまずいということで定められたものです。

なお、最近植民地時代リバイバルブームで、当時を舞台にした映画・ドラマがいろいろ作られていますが、それらの大半では登場人物たちに当時のソウルのことを「キョンソン」と呼ばせています。しかしこれは時代考証的に見て明らかに誤りです。つまり今の韓国人たちも、植民地時代の記憶を持っている人たちが少なくなり、当時何と呼んでいたのかがもう分らなくなっているのです。

また、朝鮮王朝を舞台にした今日製作の時代劇では今のソウルを「漢陽(ハニャン)」と呼ばせています。確かに朝鮮王朝時代の今のソウルの漢字表記の公式名は「漢陽」もしくは「漢城(ハンソン)」とされていたのですが、これも、その名は単に公式文書上のものであって当時一般の人は「ハニャン」などという言葉は使っておらず、ずっと「ソウル」と呼んでいたのではないかと私は疑っています。




ソウルという都市の名前は時代毎に何度も変更されました。
以下はWikipediaの「ソウル特別市」を参考にしています。詳しくはそちらをどうぞ。

まず新羅時代のソウルは「漢陽」といいました。名前が明らかに当時の中国語の影響を受けているのが分かりますね。朝鮮半島は非常に古く(中国は漢の時代前後)から半島北部を中心に中国諸王朝の影響を強く受け続けてきました。ちなみに半島南端部は倭、つまり日本の影響の強い地域でした(同地からは日本に特有の墓である前方後円墳が多数発見されている)。

高麗の時代に入ると「楊州」となり、同じく高麗の「文宗」という国王の時代に「南京」となりました。

やはり高麗の忠烈王の時代に再び漢陽に戻りましたが、李氏朝鮮時代に「漢城」となりました。この名称は実はつい最近まで(主に中国人向けのための)漢字表記による「ソウル」として残っていました。漢字表記の場合の発音はソウルではなく、朝鮮語式の発音では「ハンソン」、中国語だと「ハンチョン」のような発音です。日本語式だともちろん「かんじょう」ですね。

その後ソウルを指す地名の一つとして「京城(キョンソン)」という地名が使われだすようになり、日本統治時代に正式に京城(けいじょう)となります(正確には京城府)。
「京城」という地名は日韓併合以前から朝鮮語内で使われていた地名の一つでしたが、戦後この地名は日本による植民地支配の象徴の一つとみなされるようになり、現在の都市名「ソウル」に変更され、漢字表記は李氏朝鮮時代の名称「漢城」に戻されました。
これまで出てきた都市名は全て漢語でした。しかし「ソウル」は朝鮮語固有の単語による都市名です(日本語でいえば「みやこ」にあたる言葉に由来するらしい)。朝鮮語の漢字には日本語でいうところの「訓読み」にあたるものがほとんどありません。そのため「ソウル」と読める朝鮮語における漢字も存在していません。

以下はおまけです(現在の話ですので)。

「漢城」という漢字表記は5年前くらいに改められました。中国語向けの漢字表記を「ソウル」という発音になるべく近い中国語音を持っていて、かつ意味も「都」に近い「首爾(ショウアル)」に変更しました。初めの頃こそ中国の反発を受けましたが、結局中国政府が中国語における漢城という表記を韓国政府の要請を受けて首爾に変更しました(台湾・香港における中国語も同様に変更されています)。
なお南北朝鮮ではあくまでもハングル表記のみですし、日本ではカタカナによる「ソウル」で何の問題もありません(朝鮮語の発音に基く表記ですからね)。それ以外の言語でも「ソウル」に近い発音の名称を用いていますので、実質的にこの漢字表記の変更は中国語向けのものであるということになります。

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